あんなやり合いのあとでセックスなんてままごとに等しい、と思っていた。でも始まってしまえば、それは正しくもなかった。興奮と情愛を言葉にして編み上げ形にしたい気持ちと、ふわふわと身体中をつつむ高揚感ごと飲み込んでしまいたい思いがないまぜになって、毒の回った脳から思考力を奪っていく。まだこんな世界を見られるのか。
全部ほしいなあ。
声に出したら、きみが笑った。なにが、と聞かれたから、自分の全部と引き換えなら全部を俺にくれるかな、とそのまま続けた。きみはしばらく考えるふりをして、いいよ、と言った。軽すぎて、怖くなった。
幸せだと思うことに食が割り入ってきたのは最近のことだ。うまいものを食べるときにきみがとなりにいる、それだけで胸がいっぱいになる。こんなに楽しくてどうしようね、と言ったら、きみは笑って、楽しくて何が問題なんだよ、と返した。
そうだなあ。これは俺の本質みたいなもので。永遠なんてないっていう真理を忘れて生きられない。死がふたりをわかつまで、と誓うことばは、その実、永遠なんてないと言いながら誓っている。愛し合っていても、生命の途切れた先には別れがある。それでも人間はいっときの幸福に身を委ねる。その先の真実はどこかへ追いやる。羨ましい、とずっと思っていた。
お前みたいになれたら楽だろうけどこれが俺だからね。そう言い訳をする。いつか絶対にくる別れの時を忘れて生きられない。失う未来を気にしすぎて今を楽しめない方が損だ、ときみは言う。先のことなんてわからない、とも。反論できない。反論する気にもなれない。
ああ、なくしたくないなあ。
頬杖をついて口元を隠す。きみがねえ、と呼んだ。顔を上げると、今日もおいしいもの食べよう、と言われた。
ああ、と答えた。それだけでよかった。