やることが多すぎる。
脳の奥はジンと痺れて、発泡ウレタンが膨れ上がるように訳のわからないものが頭を起点として体の中にもこもこもこもこと盛り上がってくる。体の形をした薄皮のなかがその訳のわからないものでいっぱいになり、限界を迎えると重力に従って布団の上へとダイブする。
ああああ、と濁った低い悲鳴を羽毛の中に撒き散らしながらわたしは体の中の澱を吐き出す。叫んだ息の温かさで羽毛が湿気った。
メールの返信でも電話の折り返しでも、なんでも割と溜め込まないでさっさと片付けてしまう質なのに、暇なときはこんなに暇でいつか文無しになってしまうのではないかと不安になる。
顔を横に向けると、枕の端に貼りついた自分の髪の毛が一本、目の前で弧を描いていた。抜けたのか、落ちたのか。朝起きたときはなかった気がする。気がするだけかもしれない。わたしは最近、自分の「気がする」をあまり信用していない。
スマホは布団の外、手の届かないところに置いてある。昨夜、意志の力というやつで遠くに追いやった。正しい判断だった、はずだが、いまこの瞬間に限っては間違いなく間違いだった。寝返りを打つ。羽毛がまた湿る。悲鳴の残り香みたいな湿度が、布団の中に薄く溜まっている。
前の案件のフィードバック、まだ返してない。来週の打ち合わせ、場所こっちで取るって言ったやつ。冷蔵庫の豆腐、たぶん切れてる。
頭の中で、やることが発泡ウレタンの表面にぽこぽこと泡をつくる。つくっては弾け、弾けてはまたつくる。弾けた跡にはなにも残らないのに、泡の総量だけは減らない。減らないどころか、泡を数えているあいだにも奥のほうから新しいのがもこもこ上がってくる。
わたしは目を閉じた。閉じた内側で、銀行の残高が一瞬ちらつく。先月の数字。先々月の数字。去年の同じ月の数字。全部覚えているわけではないのに、こういうときだけ不思議と細部まで出てくる。暇なとき、というのは本当はそんなに暇ではなくて、ただ自分の中の発泡ウレタンを眺めている時間のことなのかもしれない。眺めて、怯えて、眺めて、怯えて、そのあいだに時間が減っていく。
布団の外で、郵便屋さんのバイクの音がした。止まらずに通り過ぎた。
しばらくして、わたしはのっそりと腕を伸ばす。スマホには触らず、枕元のメモ帳を引き寄せる。ボールペンのインクがかすれている。「とうふ」と書いた。それから、「メール3件」「折返し1件」と書いた。書いている最中にも泡は湧いてきたが、紙の上に降ろしてしまった分だけ、体の薄皮は少しだけ余白を取り戻した気がする。
気がする、だけかもしれない。でも今日はそれでいい。
ボールペンを置いて、また目を閉じる。発泡ウレタンはまだ膨らんでいる。膨らんでいるけれど、さっきより少しだけ、輪郭が見える。