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日常

  • 促音便

    日常 / 現代

    「書きて」が「書いて」になる。音が詰まる。喉の奥で一瞬、息が止まる。その一瞬の沈黙が、言葉の意味を変える。「来た」と「着た」は同じ音のようでいて、促音の深さが違う。舌の位置が違う。そういうことを考え始めると、きりがなかっ […]

    401字 / 約1分

  • 苦しそうな顔をする

    日常 / 現代

    気持ちが良すぎると、眉を顰め少し苦しそうな顔になる。なぜだかはわからない。快楽は快楽のはずなのに、表情だけ見れば痛みと区別がつかない。目を瞑って、眉間に皺を寄せて、唇をきつく引き結んで、それからふっと力が抜ける。その一連 […]

    890字 / 約1分

  • 頭を撫でる話

    日常 / 現代 / 社会人

    大人になると頭を撫でられる機会は減る。 子供の頃は自然だった。よくできたね、と手が伸びてくる。偉かったね、と髪を乱される。祖母がそうだった。忙しい両親の代わりに、祖母が撫でた。皺の深い手のひらが後頭部を包むように触れて、 […]

    862字 / 約1分

  • 迷信に頼りたくなる日

    日常 / 現代

    日本人は骨格の関係上肩が凝りやすいんだそうだ。欧米人に比べて頭が大きく、首が短く、なで肩で、僧帽筋が薄い。だから肩甲骨まわりに負荷が溜まる。一般人でも整骨院や整体に通う。金持ちでなくても。肩が凝るというのはそれだけ普遍的 […]

    371字 / 約1分

  • 余味

    友情 / 推し活 / 日常

    コラボカフェのドリンクは、おいしくなくていい。 鹿野くんのイメージドリンクは「Sunshine Squash」と名前だけは洒落ていたけれど、中身はメンバーカラーの黄色にちなんだレモンシロップを炭酸で割っただけの液体だった […]

    1,998字 / 約3分

  • 接触面積

    友情 / 推し活 / 日常

    手のひらが、まだ熱い。 正確に言えば熱いのではなくて、熱かった記憶が消えないまま皮膚の表面にとどまっている。握手会の列を出て、エスカレーターを下りて、駅前のドトールに入って、アイスコーヒーを受け取って、席に着いて。その間 […]

    6,412字 / 約11分

  • 移り香

    推し活 / 日常 / 演劇

    一列目のほぼセンターだった。 チケットを三回確認した。発券したとき、電車の中、劇場の前。三回とも同じ席番が印字されている。見間違いじゃない。 客演を観に来ただけの自分がこの席にいていいのだろうか。この劇場に毎公演通ってい […]

    2,392字 / 約4分

  • 推し色不適合

    友情 / 推し活 / 日常 / 演劇

    開演四十五分前のドトールには、すでに戦場の気配が漂っている。 水澤瑞希は、向かいに座った友人の胸元を見て眉をひそめた。 「ねえ真帆。それ何色のつもり」 「え? 赤」 「……どこが?」 テーブルに身を乗り出す。真帆の着てい […]

    2,803字 / 約5分

  • 懺悔する癖

    日常 / 現代

    たわいもない嘘をついた時、薄らと懺悔する癖がある。 人間関係を円滑にするために必要な潤滑剤だと認識している。わかっている。それでもどうしてか、嘘が顕になろうとならなかろうと、胸の内にうすく泥が溜まる。言われてもわからない […]

    421字 / 約1分

  • 雨は地に恋して落ちてくる

    日常 / 現代

    雨は地に恋して落ちてくる。 誰が言ったのか知らない。知らないまま覚えている。雨の日に思い出す言葉がひとつあるというのは、悪くない。窓を打つ音を聞きながら、恋して落ちてくるのか、と思う。そうだとしたら雨は毎回片道で、地面に […]

    540字 / 約1分

  • 青切符

    日常 / 現代

    その朝、駅前の横断歩道で信号待ちをしていたとき、妙なものを見た。 朝の八時すぎ。通勤のピークにはやや遅いが、それでも横断歩道の前には会社員や学生がびっしり並んでいる。その隙間に自転車が五、六台まじっていた。みんなサドルに […]

    2,615字 / 約4分

  • 面接後の儀式

    お仕事 / 日常 / 現代

    手応えがないときは、わかる。 面接官の相槌が均等になった瞬間に、もう決まっている。序盤に「なるほど」が三回続いたら赤信号で、質問が業務内容から離れて「休日は何を?」に滑ったら完全に消化試合だ。今日は開始四分で休日の話にな […]

    1,166字 / 約2分