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現代
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雨は地に恋して落ちてくる
日常 / 現代
雨は地に恋して落ちてくる。 誰が言ったのか知らない。知らないまま覚えている。雨の日に思い出す言葉がひとつあるというのは、悪くない。窓を打つ音を聞きながら、恋して落ちてくるのか、と思う。そうだとしたら雨は毎回片道で、地面に […]
540字 / 約1分
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調律
現代 / 音楽
三年間、同じ音だった。 放課後の音楽室はいつも少しだけ湿っていて、窓際のカーテンが吸い込んだ西日のにおいと、誰かが置き忘れたペットボトルのぬるい存在感と、それからこのアップライトの、少し鼻にかかったような中音域。全部まと […]
1,020字 / 約2分
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督促
家族 / 現代
電話の向こうで息子が何か言いかけたのを、正志は遮った。 「だからな、返せないなら最初から借りるなって話だろうが」 声が自分でも思ったより大きくなっていた。ダイニングテーブルに片肘をつき、もう片方の手で携帯を耳に押しつけて […]
1,144字 / 約2分
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青切符
日常 / 現代
その朝、駅前の横断歩道で信号待ちをしていたとき、妙なものを見た。 朝の八時すぎ。通勤のピークにはやや遅いが、それでも横断歩道の前には会社員や学生がびっしり並んでいる。その隙間に自転車が五、六台まじっていた。みんなサドルに […]
2,615字 / 約4分
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空にする
お仕事 / 現代
畑中が《ペタル》のショーケースを空にする判断をしたのは八月だが、きっかけはその半年前にある。 二月の午後、女性客が二人、ショーケースの前で十分ほど悩んでいた。ムースフレーズのアントルメを選んで席に着き、写真を撮り始めた。 […]
2,376字 / 約4分
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金曜日の六個
お仕事 / 現代
桐野が《フルール》に入ったのは、《リヨン》から戻って二度目の春だった。 フルールは駅から少し離れた住宅街にある洋菓子店で、創業は四十年前になる。ショーケースに並ぶのはシュークリーム、ミルフィーユ、フルーツタルト、プリン。 […]
2,774字 / 約5分
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面接後の儀式
お仕事 / 日常 / 現代
手応えがないときは、わかる。 面接官の相槌が均等になった瞬間に、もう決まっている。序盤に「なるほど」が三回続いたら赤信号で、質問が業務内容から離れて「休日は何を?」に滑ったら完全に消化試合だ。今日は開始四分で休日の話にな […]
1,166字 / 約2分
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被験者B
シリアス / 現代
大学の正門をくぐるのは、たぶん十二年ぶりだった。 五月の終わりの、湿気が首の後ろに貼りつくような午後。守衛所の脇を通り抜けると、銀杏並木の向こうに煉瓦色の建物が見えた。人文社会科学研究棟。メールに書かれていた建物名と照ら […]
6,831字 / 約11分
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赤字
お仕事 / 現代
朝、原稿を開く。コーヒーより先にファイルを開く癖はいつからか覚えていないが、たぶん編集の仕事を始めた頃からではなく、もっとあとだ。読むことが作業になってからだと思う。 今日の原稿はライターの中沢が書いたインタビュー記事で […]
3,553字 / 約6分
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体操服
日常 / 現代
タイヤが砂利を噛む音がして、「おら行くぞー!」と、岡谷の声がした。それから布が引っ張られるような、くぐもった笑い声。鳴海の声だ。 スマホの画面にはLINEのトーク一覧が映っていた。誰にも用はない。未読もない。ただ親指が画 […]
1,461字 / 約2分