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現代

  • ご機嫌のゆくえ

    日常 / 現代

    美都が「もう無理かも」と言い出したのは、トマトクリームパスタをフォークでぐるぐる巻きにしながらだった。バイトを変えて、まだ三日。 「早くない?」 「早いよ。自分でもわかってる」 美都はフォークを皿に置いて、ため息をひとつ […]

    1,825字 / 約3分

  • 秋の日は鶴瓶落とし

    家族 / 日常 / 現代

    秋の日は鶴瓶落とし、という。さっきまで明るかった空が、気づくと暗い。井戸の底に落ちる桶のように、一気に沈む。その速さにいつも驚く。何度秋を過ごしても慣れない。 法事の帰りだった。叔母の三回忌。座敷に通されて、仕出しの蓋を […]

    1,638字 / 約3分

  • 人肌は癖になる

    シリアス / 現代

    人肌は癖になる。 知っていたから避けていたのだと思う。溺れやすい人間だと自覚がある。だからこそ自分で一線を引いてきた。触れなければ欲しくならない。欲しくなければ失う恐怖もない。そういう計算で生きてきた。 原始反射というも […]

    1,358字 / 約2分

  • うちのママの絵

    家族 / 日常 / 現代

    うちのママは絵が下手だ。下手、というのもちょっと違う。絵心がないとか、不器用とか、そういう話ではなくて、もっと手前のところで何かが絶望的に噛み合っていない。たとえば、立方体が描けない。 四角に何かをつけ足すと立方体になる […]

    1,243字 / 約2分

  • 指定席

    家族 / 日常 / 現代

    毎週土曜の十四時から、息子はスイミングスクールに通っている。レッスンは一時間。 一時間をどう過ごすかは、待合室に足を踏み入れた瞬間に決まる。 ガラス越しにプールを見下ろせるその部屋には、すでに母親たちが集まっていて、パイ […]

    1,226字 / 約2分

  • 風邪をひいた時に見る夢

    日常 / 現代

    風邪をひいた時に見る夢には特有の質感がある。輪郭がない。場面と場面の継ぎ目がない。さっきまで教室にいたのに次の瞬間には知らない川の前に立っていて、それを不自然だと思わない。思わないことが、起きてから怖くなる。 熱があると […]

    1,000字 / 約2分

  • 飽和食塩水

    シリアス / 日常 / 現代

    ひとりでいるのはよくない。余計なことばかり考えてしまう。 友人から写真が送られてきた。何人かで集まった食事の席で、テーブルの上に皿が並んで、誰かの手がグラスを持ち上げている。添えられた文面は短かった。来ればよかったのに。 […]

    984字 / 約2分

  • 促音便

    日常 / 現代

    「書きて」が「書いて」になる。音が詰まる。喉の奥で一瞬、息が止まる。その一瞬の沈黙が、言葉の意味を変える。「来た」と「着た」は同じ音のようでいて、促音の深さが違う。舌の位置が違う。そういうことを考え始めると、きりがなかっ […]

    401字 / 約1分

  • 影送り

    シリアス / 現代

    影送りという遊びを教わったのは小学校の校庭だった。自分の影をじっと見つめて、十数えてから空を仰ぐ。するとさっきまで見ていた影が空に浮かぶ。網膜に焼きついた残像が、青の中にうすぼんやりと立っている。輪郭だけの自分が、空にい […]

    802字 / 約1分

  • 苦しそうな顔をする

    日常 / 現代

    気持ちが良すぎると、眉を顰め少し苦しそうな顔になる。なぜだかはわからない。快楽は快楽のはずなのに、表情だけ見れば痛みと区別がつかない。目を瞑って、眉間に皺を寄せて、唇をきつく引き結んで、それからふっと力が抜ける。その一連 […]

    890字 / 約1分

  • 執筆中

    アンヘルシー

    シリアス / 現代

    六時四十分に目が覚める。アラームは六時四十五分にセットしてあるが、鳴ったためしがない。澄香はその五分の余白を、布団の中で天井を見ながら過ごす。古書店で買った百五十円の本に、誰かの書き込みが残っていた。

  • 執筆中

    最上叶は観察がお好き

    バディ / 探偵 / 現代

    スポットワークで「探偵助手」に応募した大学生の鳴海。現れた雇い主は売れっ子小説家で、なぜか探偵も兼業している最上叶。独自のやり方で謎を解くが、絶対に守る鉄則がひとつあるらしい。