2026.05.05

/au

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完結

926文字 約2分

深夜一時、湾岸線。晃はハンドルを握っている。メーターは時速八十のあたりで安定している。出すぎないように、引きすぎないように保っているつもりだが、後ろを走る車が追い越し車線に出るのを横目で確認するたびに、自分が無意識にアクセルを緩めていることに気づく。気づいてもどうにもならない。

凪は助手席で、窓の外を見ている。三十分、ひとことも話していない。話すことがないからではない。話すと、たぶん、詰まる。詰まると、晃はハンドルを握る指の力を間違える。間違えた指を凪は見ている。見ているのを晃は知っている。

「天文単位ってさ、」

凪が窓に向かって言った。声がガラスに薄く跳ね返ってくるだけで、晃に向けた言葉なのか窓に向けた言葉なのか、声の角度では判じきれない。地球と太陽の距離を1にする単位だよ、と凪は続ける。auって書く。約一億五千万キロ。光が八分かかる。それでね、と凪は声を少し落とした。それでも宇宙のなかじゃ近所の話なんだって。

晃は頷かなかった。頷いたら、凪はそれを合図にして、もう一段先のことを言う。先のことは、まだ晃には引き受けられない。引き受けられないというのは、嘘だ。引き受けられないと自分に言い聞かせている。違いは、たぶん、致命的だ。

前方の電光掲示板にサービスエリア二キロと出た。凪は顔をこちらに向けない。降りる、と凪が訊いた。降りない、と晃は返した。なんで、と凪は続けない。続けなくても伝わってしまう相手にだけ、人は降りない選択をする。

サービスエリアの灯が右手に流れて、流れて、後ろに過ぎていった。トラックが一台、追い越し車線を抜けていく。車内の温度計は二十二度を示している。寒くないか、と訊く必要もない。

天文単位ね、と晃はようやく口を開いた。じゃあ凪との距離は何auだろう、と訊こうとして、訊かなかった。訊いたら凪は答える。修辞疑問に答えてしまう癖は、凪のほうにもいつのまにかうつっている。

メーターはまだ八十のあたり。出口まで、あと四十キロ。四十キロは、auで言えばほとんどゼロだ。ゼロは、ゼロでしかない。それでも晃はアクセルを踏み込まない。踏み込まない理由を、晃は自分に説明しない。

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